18. ジエチレングリコールで多数の死者  歴史はどこまでも繰り返す

 2007年 5月11日掲載  2014年1月10日再掲


 パナマでジエチレングリコールによる死者が100人? 365人?出たとの報道です。中国のせき止めシロップに、グリセリンの代わりに使用されたジエチレングリコール(HOCH2CH2OCH2CH2OH)が原因とあります。
 人に対する経口毒性は1〜2グラム/kgと推定されています。青酸カリなどの200mg/人に比べると弱い毒です。しかし、中毒症状として、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れ、最終的には肝臓を冒すそうです。

 1937年には、薬の賦形剤として使用されていたジエチレングリコールが原因で105人が尿毒症で死亡した。1985年には、ジエチレングリコール入りワイン事件が日本でも起こった。輸入されたワインからジエチレングリコールが検出されたもので、事件発生後に該当ワイン61000本余りが焼却処分された。ジエチレングリコールをワインに少量加えると、普通のワインが高級ワインに早や代わりするというのが添加の理由であった。

 MSDS(Material Safety Data Sheet、製品安全データシート、シェルケミカルジャパン)では、急性経口毒性は、ヒトの推定致死量は100mlとなっている。反復投与毒性は、腎臓損傷を起こすことがあるとある。

 下記URLにある通り、まさに「米国では中国産の原料を使ったペットフードを食べた猫や犬が死んでおり、中国産食品や原材料への不安が高まっている。」 食品がグローバルに流通する現在、自己防衛の方法がないのが実態であろう。



パナマで100人死亡、薬に中国製の有毒原料・米紙報道
http://health.nikkei.co.jp/news/top/index.cfm?i=2007051003196h1
全文引用
 【ニューヨーク9日共同】パナマで販売されたせき止め薬に中国製の有毒な原料が含まれ、服用した少なくとも100人が死亡していたと、米紙ニューヨーク・タイムズなどが9日までに伝えた。米国では中国産の原料を使ったペットフードを食べた猫や犬が死んでおり、中国産食品や原材料への不安が高まっている。
 同紙などによると、昨年秋、パナマで原因不明の死亡例が相次いだため、パナマや米当局が調査したところ、せき止め薬に使われた有毒な化学物質が原因と判明。365人の死亡者が薬を服用したとの報告があるという。
 せき止めシロップに甘味料として使われるグリセリンのかわりに、中国の業者が安価な産業用「ジエチレングリコール」を使用、「グリセリン純度99・5%」と偽って輸出していたとみられる。
 中国当局は8日、「無認可の業者が、医薬品として使えない化学原料を製造した」と中国企業の関与を認めた。中国政府は業者を検査するなど再発防止に積極姿勢を示している。





さらに、
2009年3月3日掲載

ジエチレングリコールによる死亡事故は続く 今度はナイジェリアで死亡事故

パナマでジエチレングリコールによる死者が出た2007年5月に関連ブログを書いた。この度、不幸にも今度はアフリカのナイジェリアにおいて死者を出す事故が起こってしまった。約1ヵ月弱前の出来事だ。

さて、ジエチレングリコールと本来使用するはずであったプロピレングリコールを比べると、その化学構造は大きく違う。似ているところは化合物名の語尾のグリコール(glycol)位である。

ジエチレングリコールは、つい最近(2006年)も中国製品に混入し、パナマで死者をだした。ナイジェリアの公用語は英語であるので、このニュースはナイジェリア国内でも報道されたことと思う。その前(1985年)には、ワインへのジエチレングリコール混入事件があり、全世界的な騒ぎとなった。この添加された理由は、ジエチレングリコールに甘い味があり、ワインに加えると2級ワインが1級へと変身するためである。

ジエチレングリコールの致死量は0.7g/kg−体重となっている。体重が10kgの幼児であれば約10mlも摂取すれば死に至る可能性が大きい。

大人の体重を60kgとすると、その致死量は約40g強、50gでかなり危険となる。不謹慎な計算であるが、1トンのジエチレングリコールは20000人の人を殺せる計算となる。

今回、ナイジェリアにおいてなぜ薬品の取り違えがあったのか?
  単純なミスなのか?
  毒性を知らずに同じグリコールということでプロピレングリコールより安価なグリコールとして選んだのか?
"nigellia diethylene glycol" をキーワードにGoogleで検索したが、ヒットがなかったので、残念ながらその詳細は分からない。

食の安全と安心にかかわる人、医療にかかわる人。ともかく口に入るものを取り扱う人は、取り扱っている薬品についての勉強と確実な管理体制、およびその体制の遵守が必要であることは間違いがない。



ジエチレングリコール
構造は HOCH2CH2OCH2CH2OH
日本国内での消費量は28000トン(2008年)
価格 140〜150円/kg

プロピレングリコール
構造は CH3CH(OH)CH2OH
日本国内での消費量は85000トン(2005年)
価格 290〜310円/kg


CNN 2月7日
乳児用鎮痛剤に有害物質混入、児童ら84人が死亡 ナイジェリア
 ナイジェリア・ラゴス(CNN) アフリカ中部、ナイジェリアの保健省当局者は6日、不凍液やブレーキ油に使われる有害物資に汚染された乳児用鎮痛シロップ剤を服用した乳児、児童ら少なくとも84人が死亡したと報告した。
 犠牲者の年齢は生後2カ月から7歳児まで。薬品の製造元の複数の幹部らが業務上の過失などで逮捕された。ナイジェリアの食品薬品安全管理当局は同社の操業中止を命じた。
 汚染されたのは、歯の生え始めに生じる痛みを抑える鎮痛シロップ剤で、分析の結果、高濃度のジエチレングリコールを検出した。ジエチレングリコールは体内に入った場合、腎臓、心臓や神経系統に悪影響を及ぼす作用を持つという。
 混入した経緯は不明だが、同社が通常用いられるプロピレングリコールとジエチレングリコールを間違えて使った疑いがある。


ジエチレングリコール Wikipedia
引用開始
(生産量・消費量)
 2008年度日本国内生産量は 108,324 t、工業消費量は 28,159 t である。
(用途)
 不飽和ポリエチレン樹脂の原料として用いられる。
 製品としては、不凍液のほか、ブレーキ液、潤滑剤、インキ、たばこの添加物(保湿剤)、織物の柔軟剤、コルクの可塑剤、接着剤、紙、包装材料、塗料などに使われる。また、引火せず、有毒な蒸気を生じたり、皮膚吸収されないことから、一定の反応に際して優秀な溶媒として用いられる。
 皮膚吸収されないという特性により、歯磨き(口腔化粧品)を含む化粧品にも多く用いられる。この限りにおいて、つまり飲用・食用として摂取しない限り、毒性は認められないとされる。よって、歯磨きを含む化粧品の配合成分に関する規制である薬事法「化粧品基準」においても、ジエチレングリコールは規制対象ではない。また旧来の規制である薬事法「化粧品種別許可基準」においても、配合が禁止されているのはアイライナー化粧品のみである。
(毒性・中毒事例)
 ジエチレングリコールには経口摂取(飲用・食用)による肝、中枢神経系、腎への毒性があり、死亡例では、下痢や嘔吐が続き、最終的には腎不全に至り死亡するケースが多い。甘味を有するため不凍液の誤飲や、ワインなどに添加物として混入されて中毒事件を引き起こす。エチレングリコールも同様の性質を有するが、ジエチレングリコール (LDL0 1000 mg/kg)より強い急性毒性 (LDL0 710 mg/kg)を持つ一方、環境中での半減期は短い。
 ジエチレングリコールを経口摂取(飲用・食用)したことによる死亡例は多く、1937年アメリカで薬品の中にジエチレングリコールが混入し、105人が死亡1985年にはオーストリアワインの甘さを増す目的でジエチレングリコールをワイン業者が混入させてドイツなどに出荷。日本などにも輸入され毒入りワイン事件として騒動となった。これがきっかけとなりオーストリアではワインの混入物に対し、厳しく対処するようになった。
 2007年5月には、パナマ政府が2006年に中国から輸入した風邪シロップとして配布した薬(Azucar)は、中国の業者が「グリセリン」と偽って販売したジエチレングリコールが原材料に含まれていたため、これを経口摂取した少なくとも100人以上が死亡した。
                                      引用終了


プロピレングリコール Wikipedia
引用開始
(人体への影響)
 人間を含む哺乳類全般に対して急性毒性を持たない。 経口LD50の最低値は5種類の生物で18〜23.9g/kg、皮膚LD50は20.8g/kgと毒性はきわめて低い。
                                        引用終了




文書リストに戻る ホームに戻る