2008年からの地球温暖化ガスの排出量削減を義務付けている、京都議定書の削減プロセスの要請を受けて、世界的にバイオエネルギーの開発が盛んに行われている。特に、自動車燃料であるガソリンについては、ガソリン:エタノール=90:10の混合比のものをE10といい、すでにアメリカや中国で実用化されてきている。日本の計画はE3であり、これはガソリン:エタノール=97:3の比率のものである。このE3を普及してゆくために、日本は2010年に50万キロリットルのエタノールの導入を計画している。その多くは輸入になる可能性が高いと考えられるのだが? なお、エタノールとはエチルアルコール、すなわちお酒と同じ成分のことである。
バイオエタノールの主原料は、最初にその生産が行われたブラジルでは、サトウキビが原料である。砂糖(シュークロース)やブドウ糖(グルコース)を微生物で発酵してエタノールとする。発酵で生じたエタノールを含む水溶液からは蒸留によりエタノールが取り出されるが、このときに蒸留に使用するエネルギーとしてはサトウキビの搾りかすであるバカスが用いられる。
サトウキビ以外に、トウモロコシを原料とするもの(アメリカ、中国)やオレンジを原料とするもの(スペイン)などがある。主流はトウモロコシで下表のアルコール生産量を得ている。オレンジではジュース工場の搾りかす50万トンより約3万トン強のエタノールが得られる予定である。(原料からの歩留まり 3/50≒0.06)
日本はトウモロコシを輸入に頼っていて、エタノール製造の原料として使用するにはあまりにも高価である。沖縄県宮古島ではサトウキビの栽培は行われているが、その規模は決して大きくない。最近、建築廃木材や木屑、剪定枝などを原料にエタノールを製造する会社が大阪府堺市に立ち上がった。大成建設、大栄環境、丸紅、サッポロビール、東京ボード工業が出資して設立したバイオエタノール・ジャパン・関西という会社がそれで、初年度に4万〜5万トンの廃材からエタノール1400キロリットルを(原料からの歩留まり 1400*0.8/50000≒0.02、0.8はエタノールの比重)、将来的には4000キロリットルの製造を目指す。産業廃棄物からのエタノール製造であるので日本での立地としては好ましいが、木材にはセルロース成分に加えリグニン等のエタノール生産には関係ない組織成分が含まれている。そこで、まずリグニンを取り除く工程、つづいてセルロースを分解してグルコースを得る工程、さらにグルコースよりエタノールを得る工程と、バカスやトウモロコシからエタノールを得る場合と比較して長い工程が必要となる。当然、得られるエタノールの価格は割高となる。
最近、トウモロコシの価格が高騰している。世界的な需給量にはまだ余裕はあるが、需給がタイトになってきたことが原因である。中国国内においてはトウモロコシの生産量は国内の需要量を上回っているが、トウモロコシからのエタノール製造にはブレーキがかかってきたようである。食料品であるトウモロコシは、たとえそれが太陽の恵みでリサイクル可能な燃料源になり得るといっても、抵抗があるところである。約30年前にはマルサスの人口論が話題を呼び、燃料である石油から微生物を用いてたんぱく質、いわゆる石油タンパクを製造して食糧難を乗り切ることが計画された。現在は地球温暖化が脚光を浴び、当時と全く正反対のことを行っていることになる。
さて、最後に一点だけ。発酵により製造したエタノールは、最大でも10数パーセント濃度の水溶液であるから、この溶液からエタノールを高濃度に濃縮する必要がある。一般的には蒸留による方法が用いられるが、この方法では約95%くらいまでしか濃縮できず、残りは水である。この水を含んだエタノールをガソリンと混合すると、ガソリンの層から水分が分離してくる。また、水分を含むガソリンはエンジンをいためる可能性があるので好ましくない。第3成分としてベンゼンを加えて蒸留すると全く水分を含まないガソリンを得ることができるが、この方法ではエネルギー多消費型の蒸留となり好ましくない。効率的な無水エタノールの製造方法が工業的に求められている。
国 名 生産量 原 料 年
アメリカ 1500万キロリットル トウモロコシ 2005
中国 130万トン トウモロコシ 2006
日本 50万キロリットル 輸入? 2010
※ アメリカの同年のガソリン使用量は、5億3000万キロリットル
約1/4のガソリンがE10仕様となっているか?
※ エタノールの比重は約0.8であるので、1500万キロリットルは
約1200万トン
さらに、
2007年3月2日掲載
トウモロコシの価格が約倍に高騰 バイオエタノール需要に関連して
トウモロコシの価格が昨年9月の1ブッシェル当り2ドル強から、この2月には4ドル強と約倍の価格となった。これはアメリカにおいて、トウモロコシから製造したバイオエタノールをガソリンに10%混ぜ込みE10ガソリンとすることとしているためである。なお、ブッシェルとは体積の単位で、1ブッシェルのトウモロコシは、25.4kgに相当する。
世界のトウモロコシの生産量は69200トン、その内、アメリカが26700万トン(39%)、ブラジル4600万トン(7%)、アルゼンチン(3%)などとなっている。アメリカの作付面積の約6割は遺伝子組み換えトウモロコシであり、病気に強いことや作付面積当りの収穫量が多いことがその理由となっている。この遺伝子組み換えトウモロコシの作付面積の割合はますます増加して行く。
現時点では8100万トン(アメリカでの収穫量の約30%)のトウモロコシより、約1500万トン?のバイオエタノールを得ている。アメリカは、来年にはこのエタノールの生産量を倍増させたいとの意向である。ということは、エタノール製造のために必要なトウモロコシの量は・・・・???? 食料としてのトウモロコシが車の燃料に姿を変えることになる。
トウモロコシは家畜や家禽の餌として重要な位置を占め、アメリカはその重要な供給国(輸出国)であるので、年ごとにその需給関係がタイトになり、トウモロコシのみならずトウモロコシを飼料とする食肉までもが高騰してくるものと予想される。
さらに、
2007年3月8日掲載
バイオエタノールの生産量 ガソリンの消費量を減らすために穀物より製造
バイオエタノールの生産量を記した資料があったので、紹介します。出所は次のURLです。
http://www.nedo.go.jp/kokusai/kouhou/190201/1-2b.pdf
各国におけるエタノールの生産量。Millions of gallonsは約3000トンのエタノールに相当します。2005年の全世界のエタノール生産量は約36百万トンとなります。なお、現在のブラジルのエタノール生産量は180億リットル(14百万トン)となっています(2007.3.10、日経新聞)。
APEC Ethanol Production (millions og gallons)
|
2004 |
2005 |
2006 |
United State |
3530 |
4261 |
5000 |
China |
964 |
1004 |
|
Thailand |
74 |
79 |
|
Canada |
61 |
61 |
|
Indonesia |
44 |
45 |
|
Japan |
31 |
30 |
|
Australia |
33 |
33 |
|
South Korea |
22 |
17 |
|
Philippines |
22 |
22 |
|
Mexico |
9 |
12 |
|
Total APEC |
4790 |
5567 |
|
Brazil |
3989 |
4227 |
|
World total |
10777 |
12150 |
|
エタノールの原料および製造コストが記されています(2004年)。Total cost/literを見ればよいと思います。穀物をバイオエタノールの原料とするために、食料とバイオ燃料間での穀物の取り合いが生じ、穀物の価格を押し上げることになります。最近の約半年でコーンの価格は倍となりました。バイオエタノールの生産量が全穀物量に対して無視できないような量となったときには、穀物の価格はガソリンの価格と等価となるように決定されてくることになります。もうすでにそのような状況になってきています。そのとき、穀物輸入に頼っている国、日本もそうですが、は食糧の確保に大きな犠牲を払うことになってくるでしょう。
Comparison of ethanol production costs (US$ per liter)
|
Europe |
US |
Brazil |
|
Sugar beet |
Wheat |
Corn |
Sugar cane |
Net feedstock cost |
$0.20-0.31 |
$0.11-0.19 |
$0.13 |
$0.127 |
Operating cost |
|
$0.20-0.25 |
$0.11 |
$0.014 |
Capital recovery |
|
$0.08-0.13 |
$0.05 |
$0.062 |
Other |
$0.22-0.28 |
|
|
$0.026 |
Total cost/liter |
$0.42-0.60 |
$0.35-0.62 |
$0.29 |
$0.23 |
さらに、
2008年11月14日掲載
バイオエタノールは食糧危機への影響少 ただし、米国での製造には疑問ありとFAO
国連食糧農業機構(FAO)がバイオ燃料について言及した(11月12日)。
http://wiredvision.jp/news/200811/2008111223.html
それによると、バイオ燃料が食料の価格を15%押し上げた事実はあるが、これは今まで考えられていた値よりも小さな値である。米国はトウモロコシ7900万トンをバイオエタノール用に使用しているが、この量はアメリカで生産される穀物の約3%に過ぎないこと。また、世界経済の減速と農産物の増産により、食料価格は安くなってきているとの分析である。
下の図は、石油や一般商品と比べ、食料品の価格上昇幅が小さいことを示している。
特に、米国のバイオエタノールに関しては、米国がトウモロコシの栽培に補助金を出しているので、なんとかバイオエタノール産業が成り立っているが、「まずいビジネスモデルである」と論破している。
常々バイオエタノールに疑問を呈していた私であるが、この記事は私にとってはGood Newsである。
関連する記事として「目立ち始めた米国コーン産業の異常事態」(11月5日)がある。
http://www.gci-klug.jp/commodity/2008/11/05/003889.php
この記事は、天候不順により米国でコーンの収穫が遅れ、その結果、コーン価格が上昇していること。
さらに、米国のエタノール産業は国の厚い保護下にあるにもかかわらず、米国第2位の規模を誇ったエタノール生産業者VeraSun社がコーンの高値買い付けの結果倒産したこと。
バイオエタノール産業が次第に後退の色合いを強めていること。
が報告されている。 |
さらに、
2009年4月20日掲載
原油安で米国バイオエタノール会社の破産相次ぐ
ブッシュ前政権が力ずくで推し進めたバイオエタノールビジネスの宴も、いよいよ終焉に近づいたようだ。原油価格が高止まりしていたので昨年は利益を享受していたのであるが、今年はバイオエタノールを取り巻く環境が急激に悪くなっている。
米国のバイオエタノール工場は、3月末で193工場、その生産能力は124億ガロン(3.75リットル/ガロン)。一方需要量は最大で110億ガロンと生産過剰となっている。さらに、コーンベルトは米国製部であるので、西武よりガソリン消費地の東部までエタノールを輸送する必要が生じる。
従来よりバイオエタノールの製造コストに関する情報には不明な点が多く、バイオエタノール1リットルを製造するのにガソリン1リットルを使用しているのではないかと思ったほどである。このような状況でも国の補助があればビジネスとして成り立つことになる。
オバマ政権になってどうなるか? 食料としてのトウモロコシを燃料としてのエタノールに変換することだけはやめにしてもらいたい。
温帯域に位置する日本においてはバイオエタノール製造の状況は米国よりも厳しいはずである。最近は食料以外のバイオマスからエタノールを製造するとのニュースをよく見かけるようになった。その詳しい製造原価はわからないが、たとえば、平成18年の報告であると思うが、バイオエタノール1リットルの売価は120円で、利益が出るとの試算がある。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/conf_ecofuel/rep1805/ref_2.pdf
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