昨日紹介したCO2選択透過膜に関する情報です。原理は、CO2とキャリアが結合し、この結合体が膜を透過し、次いで、膜透過後のCO2とキャリアの結合体よりCO2を回収するというものです。普通にある例では、膜中に閉じ込められたキャリアにCO2がひっつぃたり離れたりしながら、膜の片方から反対側へと運ばれるというものですから、今回示されたキャリアとCO2がひっついたままの形で膜をとおりぬける松本秀人教授の研究は、新概念に基づくものといってもよいでしょう。
ここに示されている情報からだけでは、キャリアがどんなものか、どんな膜を用いるのかは、昨日の記事から読みだすことができません。そこでさらに調査を続けると
種々のPVDF中空糸膜を用いたメンブレン・コンタクター法によるCO2ガス吸収
という記述を見出すことができ、さらに下に赤字で示したメンブレン(膜)とキャリアとしてのアミンを見出すことができました。アミンとは窒素を含む化合物でCO2とひっつきやすい性質を持っています。
引用
昨日のブログ
CO2選択透過膜によりCO2の回収コストを大幅に低減!!! 住友商事
http://highsociety.at.webry.info/200912/article_15.html
関連情報
キャリヤー輸送膜とガス吸収法のハイブリッド化による高効率ガス分離法の開発
神戸大学 工学研究科 応用化学専攻 松山秀人
http://www.kansai.meti.go.jp/2giki/kansai-seeds/seedsfils/seedsfiles2006/kobe/kobe300matsuyama.pdf
膜とキャリアに関する情報
http://www.jccp.or.jp/technical/pdf/receiving_06.pdf
3.4.2 実施研修機関
神戸大学工学部応用科学科 松山秀人教授
3.4.3 日程平成18 年年7月12 日〜8 月22 日
3.4.4 研修テーマ
Membrane Preparation, and Establishment of Simulation Program for CO2 Removal from Contaminated Gas
Stream by gas-liquid Membrane Contactors
(メンブレンの作製とガス-液メンブレンコンタクターによるガス中の炭酸ガス除去のシミュレーションの構築
3.4.5 研修概要ガスー液メンブレンコンタクターに用いる多孔膜の作製を行った。非溶媒誘起相分離(NIPS 法)と熱誘起相分離法(TIPS法)の2 種類の方法を用い、PESC(ポリエーテルスルホン)およびPVDF(ポリフッ化ビニリデン)の作製を検討した。NIPS法では高分子溶液を二重管の口金より押し出し、水浴に浸漬することにより相分離を誘起して、多孔性の中空糸膜を作製した。膜構造と膜性能(透水性、阻止率、強度等)に及ぼす膜作製条件(高分子濃度、高分子押し出し速度、中空糸膜巻き取り速度等)を詳細に検討した。
またTIPS 法では主にPVDF中空糸膜について、種々の条件下において膜作製を行った。TIPS 法は高温で均一な高分子溶液を調整し、その後冷却することにより相分離を誘起して孔形成をおこなう手法である。
このような多孔膜の作製は、研修者であるDr. Al-Marzouqi 氏にとって初めてのことであり、今後の研究の展開に大いに役立つ知見であることもあって、非常に興味を持って種々の膜作製を精力的に行っていた。
さらに、このような中空糸膜作製に加えて、中空糸膜を組み込んだ膜モジュールを用いたメンブレンリアクターの性能についてのシミュレーションを行った。溶液は吸収剤であるアミン溶液であり、ガス側はCO2/CH4の混合ガスである。CO2のみがアミンと反応できるため、CO2の選択的な吸収が起こることになる。
実際の操作ではアミン溶液とガスを向流(反対方向)で流すためそのような場合についてシミュレーションを行った。当初、シミュレーションに必要な境界条件の設定に苦労したが、本研究室の学術推進研究員である寺本正明氏の助言もあって、安定なプログラムを完成させることができた。本シミュレーション結果により、CO2吸収量やCO2/ CH4選択性に及ぼすアミン流量やガス流量の影響を明らかとすることができた。また、目的の吸収量を得るために必要な膜面積(つまり中空糸膜の本数)も明らかとなった。このようなシミュレーション結果により、メンブレンコンタクターの種々の操作条件を試行錯誤的に変えること無く、その設計が可能になったと言える。このシミュレーションについては、Dr. Al-Marzouqi 氏が本国に帰国後も、引き続き継続して検討を行うとのことであった。
こちらも、
2009年12月16日掲載
このニュースリリースの内容が事実であれば画期的である。
CO2は発電所や溶鉱炉などの排ガスに多く含まれるが、地球温暖化ガスであるCO2排出量削減のために、CO2を回収することが必要となっている。このCO2を回収する方法として大きく3つの方法がある。
1.化学吸収法
エタノールアミン(HOCH2CH2NH2)あるいはこの化合物に似た形の化合物を水に溶かし、この溶液がCO2を吸収する性質を利用してCO2を排ガスから回収する方法である。この方法では、CO2は簡単に水溶液に吸収されるが、その吸収液からCO2を取り出す際に、この溶液を120℃程度の高温にまで加熱する必要があり、多くのエネルギーがこの段階で必要になるのが問題視されている。その結果、CO2を回収するよりもCO2排出権を購入したほうが安くなる場合が多いのが現状だ。
三菱重工のCO2回収プラントは海外に輸出されており、回収さrたCO2は多くの場合、尿素(NH2CONH2)の原料として利用されている。アンモニアNH3+CO2→NH2CONH2+H2Oである。
500トン/日規模の石炭焚き排ガスCO2回収実証プラントを建設
米国サザンカンパニーと共同で実証試験を実施
http://www.mhi.co.jp/news/story/0905224821.html
2.吸着法
ゼオライトや活性炭など、CO2を吸着する性質を有する吸着材に常温や圧力を加えることによりCO2を吸着させ、次いで圧力を下げたり温度を上げることによりCO2が吸着材から脱利する性質を利用して排ガス中よりCO2を回収するものである。圧力を変化させることを特徴とする方法は、PSA(Pressure Awing Adsorption)、温度を変化させるものはTSA(Temperature Swing Adsorption)とよばれ、CO2の回収に必要なエネルギーはj科学吸収法と比較すると少なくて済む。これから伸びてくる技術と期待されている。
産業技術総合研究所(産総研)の二酸化炭素吸着剤・イモゴライトは二酸化炭素回収に革命をもたらすか?
http://highsociety.at.webry.info/200812/article_7.html
3.膜分離法
この方法の研究の歴史は長い。RITE(地球環境産業技術研究機構)なども非常に長期にわたりこの研究を続けてきているが、膜のCO2透過性や寿命、価格等に問題があり、注目を浴びている割には良い結果を得るには至っていなかった。この方法では、CO2が特殊な膜を透過して膜の反対側に通り抜ける速度が、他のガス(たとえば酸素、窒素、水素など)よりも速いことを利用する。
膜技術は、水の精製や海水からの食塩の製造、あるいは人工透析などにも利用され、目的に合った膜が、見いだされれば、この方法が一番経済的になるのではないかと考えられる。
以上、3つの方法の超概略を説明したが、今回、住友商事よりCO2の膜分離に関して画期的な技術の紹介があった。以下に必要な部分を引用した。この記事だけからでは膜寿命はわからないが、CO2の回収費用(当然、分離膜の償却年限頭は含む)は従来の5分の1になるとの画期的な発表である。この技術が定着すれば、いま問題のCO2回収については大きな改善となるものと考えられる。
部分引用
2009年12月14日
新技術"CO2選択透過膜"の実用化に向けた技術開発、市場開拓を本格化
〜省エネルギー、低炭素社会の実現に貢献〜
http://www.news1st.jp/index.php?s=28&item=948
住友商事は、株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチが開発したCO2(二酸化炭素)選択透過膜という新技術の実用化に向けた技術開発・市場開拓を、同社と共同で推進します。
ルネッサンス社が開発したCO2選択透過膜は、混合気体からCO2だけを分離して透過するという特徴を持っています。水素製造工程におけるCO2の分離法として従来採用されている化学吸収法では、分離回収工程で大量のスチームを必要としますが、CO2選択透過膜ではスチーム使用量を大幅に削減でき、大きな省エネ効果を得ることができます。さらに、中空糸(ストロー)状のCO2選択透過膜を束ねてモジュール化することによって、化学吸収法よりも狭い場所で効率よくCO2の分離回収が可能です。すなわち、スチーム利用減により、エネルギー消費は既存技術の約5分の1となり、かつ省スペースで設置できます。
この技術は大量の水素を必要とする石油精製や化学プラントの水素製造工程に応用可能です。こうした工程は日本国内で約40カ所、海外では国内の約50倍あると言われており、大きな商機が見込めます。
住友商事は、ルネッサンス社が開発したCO2選択透過膜の先進性に着目し、実用化に向けた技術開発、市場開拓を本格化します。当面は石油精製や化学プラントの水素製造工程をターゲットとして、2010年早々に日本の顧客プラントへ試作機を設置し、その評価・改良を行いながら、モジュールの大型化を進めていく予定です。
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、近畿経済産業局から補助金を得て、神戸大学松山教授らと開発 |
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