製鉄所や火力発電所などから排出されるCO2の回収研究が、国の補助金を使って実施されているが、回収されたCO2をどこに始末するかは、まだ暗中模索の状態である。主な処理先としては、地中深く埋める、あるいは海中深くで保存する方法が試みられているが、技術確立にはいましばらく時間を要し、技術が完成したときにも、その環境に及ぼす影響は未知数である。
この方法の一番の問題は、CO2回収と保存にエネルギーとコストを使い、保存したCO2が人類のためになんら貢献しないことである。
この問題を根本的に解決するビッグニュースが下に引用した新聞記事である。これによると、エポキシといわれる有機化合物とCO2を反応させて樹脂を合成する。出来上がった樹脂には重量にしてCO2成分が50%含まれる。しかも、この樹脂は汎用性があり、熱に強く、成型加工が可能である。
汎用性があるということは、現在多量に用いられているポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン並みに利用が可能ということで、そのような樹脂が嫌われ者のCO2を原料として合成されたことの意義は大きい。燃焼廃棄したときでも、その50%はもともとCO2であるから、環境負荷は通常の樹脂の半分ということになる。
この樹脂を開発したのは東京大学の野崎京子教授。元京都大学教授・野崎一先生のお嬢さんである。
一方、住友精化は吸水性樹脂の会社とある。機能性を持った樹脂の開発に力を入れているようだ。住友精化 <4008> が急伸。一時26円高の469円まで買われた、とあり、注目を集めたようだ。
天然物を素材とするポリ乳酸とは違い、廃棄物CO2を使うこの樹脂は、大きな社会的インパクトを有していると考えられるので、早期の上市が望まれる。
技術の詳細はこちらを参照のこと。
日本経済新聞 3月8日
追伸)関連記事
INSIGHT NOW 3月11日
CO2を汎用樹脂の原料に - 東大、住友精化
.東京大学の野崎教授と住友精化の研究グループが、温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を原料に樹脂製品を作る実用的な技術を開発した。このケースは、地球温暖化防止にも、環境経営にも、資源リスクマネジメントにも役立つ画期的な技術というだけでなく、その着眼点はビジネスの基本そのものとしても参考になる。
「東京大学の野崎京子教授と住友精化の研究グループが、温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を原料に樹脂製品を作る実用的な技術を開発した。(出所:日本経済新聞 2011年3月18日 3面)」
(中略)
この技術により作られる樹脂は、「ポリプロピレンやポリエチレンなどの石油系の合成樹脂の代替として使える(出所:同上)」と見られており、CO2を石油系の原料の代替素材とすることが期待される。石油系の合成樹脂の代替には、植物のでんぷんなどを使った樹脂があるが、広大な農地が必要で、生育に時間や燃料も掛かる。トウモロコシなど食糧となる植物を原料とする方法については、食糧価格高騰の要因となっている問題も指摘されている。今回の技術のようにCO2を原料とすれば、こうした問題が避けられる。
加えて、この技術は「CO2を回収して地下深くに埋める方法などに比べ、安価な温暖化対策になり得る。(出所:同上)」資源対策にも、地球温暖化防止対策にもなるという訳だ。産油国諸国の政情不安の中で、石油の代替原料を持つことは、リスクマネジメントの一つの手段として重要だ。原油価格の高止まり、高騰が懸念される中で、石油の代替原料になるということは、企業経営にとっては、コスト抑制の意味も持つ。一石二鳥どころか、一石三鳥だ。
この技術で作られる樹脂の用途としては、包装材やフィルム、家電製品の部品など幅広いものが見込まれているという。これだけの用途があれば、一般原料として広く普及することが期待される。 |
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