2009年2月10日(日本時間11日)に、高度800kmで起こったロシアの軍事衛星と米国の通信衛星の衝突によって生じた宇宙ゴミが、ハッブル宇宙望遠鏡の修理に影響を与えるのではないかと懸念されている。ハッブル宇宙望遠鏡は高度600kmと衝突が起こった高度よりも200km下を巡回しているのだが。
NASAによると10cm以上の大きさの宇宙ゴミは、今回の衝突前には1万7000個あったが、衝突後に700個増えたとある。10cm以上の大きさの宇宙ゴミはその軌道が追跡可能となっている。
しかしながら、宇宙空間においては多くの宇宙ゴミが相対速度数km/秒で飛び回り、たとえ砂粒程度の大きさの宇宙ゴミが衝突しても、たとえば宇宙服に穴をあけるなどにより、致命的な事故となる可能性が大きい。
下に示したニュース(2月21日)では、ハッブル望遠鏡の修理ミッションにおける事故が起こる「許容できる確率は 1/200 程度らしいが、 元々 1/300 程度だったのが、中国の衛星破壊で 1/185 になり、今回の衝突でさらに 危険度が増した」とある。この計算の根拠は残念ながらまだ見出していない。下に示したSOCRATESでのシミュレーション結果と考えられるが。
疑問1 何日当たりの衝突確率か?
修理にかかる期間がたとえば1週間とすると、
7日×185=約3.5年。
ハッブル望遠鏡自体もいずれは宇宙ゴミと衝突することになる。
疑問2 どの程度の大きさの宇宙ゴミまで考慮して求めた確率かが不明。
SOCRATESの中身を確認する必要あり。
疑問3 中国の衛星爆破実験で増えた宇宙ゴミは、6980個→7497個
7%増加 高度200km〜3500kmと広範囲に分布
これで衝突確率が62%も増加。 宇宙ゴミの軌道による?
疑問4 今回の衝突で宇宙ゴミは17000個→17700個
4%増加 どの程度衝突確率が増加するのか?
疑問5 疑問3と疑問4で宇宙ゴミのカウントの基準が異なっている。
ハッブル宇宙望遠鏡 Wikipediaより
地上約600km上空の軌道上を周回する宇宙望遠鏡である。長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型で、内側に反射望遠鏡を収めている。主鏡の直径2.4メートルのいわば宇宙の天文台である。
Slashdot 2月21日
人工衛星衝突による宇宙ゴミでハッブル宇宙望遠鏡の修理がピンチに
引用開始
ハッブル宇宙望遠鏡修理のミッションでは、以前から宇宙ゴミ衝突の問題が指摘されており、「壊滅的な衝突」のリスクはNASAの通常の許容範囲を超えるものであったそうだ。ジョンソン宇宙センターの軌道デブリ専門家であるMark Matney氏によると、以前計算された衝突リスクは1/185であり、「容認できない域に非常に近い」レベルだったそうだが、今回の衝突によって発生した宇宙ゴミによってさらに危険な確率になってしまったとのこと。
許容できる確率は 1/200 程度らしいですが、 元々 1/300 程度だったのが、中国の衛星破壊で 1/185 になり、今回の衝突でさらに 危険が増したということみたい。
衝突前でも1/185とはずいぶんと高い確率で驚きです。今後宇宙ゴミは増えることはあっても減ることはなさそうなので、今後さらに大きな課題となっていくと思われます。
引用終了
時事ドットコム 2月20日
宇宙ごみ
引用開始
運行を停止した人工衛星やロケットの一部、それらが衝突して発生した破片など、地球周囲の軌道上にある、既に使われていない人工物。米航空宇宙局(NASA)によると、直径10センチ以上のものだけで約1万7000個に上る。
今月10日に起きた米ロの衛星衝突で、新たに約700個が発生。
引用終了
CSSI 2007年2月2日
(2007 December 5) The official debris count from China’s anti-satellite missile test has reached 2,317 pieces big enough to be tracked and NASA's Orbital Debris Program Office is estimating more than 35,000 pieces larger than 1 cm
人工衛星破壊実験は「史上最大規模の宇宙ごみ投棄」
引用開始
中国が1月12日(日本時間)に行ったミサイルによる人工衛星破壊実験によって、大量のデブリ(宇宙ごみ)が発生していることがわかった。専門家によれば、同実験によるデブリの発生は史上最大規模。国際宇宙ステーションをはじめ低軌道を周回する数多くの人工衛星が危険にさらされている。
CelesTrakによれば、2007年2月1日現在地球周回軌道上にある人工衛星は3,150個、デブリが7,497個。今回の人工衛星破壊実験が作ったデブリは、実に517個を数える。
軌道上の物体は秒速数キロメートルで動いているので、大きさ10センチメートル程度のデブリでも人工衛星に与える影響は致命的だ。
デブリは高度200キロメートルから3,500キロメートルの範囲に分布していて、「低軌道(LEO)」と呼ばれる高度2,000キロメートル以下に存在する人工衛星がとくに危険にさらされている。その中には、高度400キロメートルの軌道を通る国際宇宙ステーションも含まれる。
CelesTrakには、軌道データに基づき衝突の確率を計算するサービス(SOCRATES)も用意されている。実際に今回のデブリが衝突する確率を計算してみると、2月2日から9日(世界時)の間で(今宇宙に周回している)人工衛星に1キロメートル以内にまで接近するケースは23件、一番近い接近は衛星からデブリまで175メートルで、一番危険性があるとされた接近は約0.016パーセントの確率で衝突に至る。
引用終了
さらに、2009年2月12日掲載
アメリカの商業衛星とロシアの軍事衛星が衝突! 生じた宇宙ゴミは今後どうなる?
宇宙は広いので衛星同士の衝突など起こらないであろうと言われてきたが、ついにその衝突が起こってしまった。初の宇宙交通事故である。
今から約40年位前であったと思うが、米ソともに宇宙の軍事利用を考えた。ソビエトは米国の軍事衛星の破壊を目的に宇宙にくぎ大の大きさ大の物体(デブリス)をばらまく軍事衛星を打ち上げることを考えた。はるか昔の記憶であるが、記事は読んだ。ただし、この計画が実施に移されたかどうかは不明である。
下に引用した記事では、高度770kmでの衝突で生じた破片は、いまは集団で動いているとなっているが、破片によってそのスピードが少しずつ違うであろうから、やがてばらばらに分かれ、破片が地球を取り巻くことになる。また、円軌道をたどっていた人工衛星であっても、少し速度が変化すれば軌道は楕円軌道となる。今回生じた多くの破片も楕円軌道に入り、地上約400kmをめぐる国際宇宙ステーションに脅威を及ぼす可能性が出てくる。
SF映画ではないが、破片が他の衛星を破壊してさらに多くの破片を生み出し、さらにその破片がまた他の衛星にぶつかって破壊が進みと、連鎖的に破壊が進むと宇宙への立ち入りが規制されることになる。玉突き衝突による高速道路の閉鎖である。こうなると、地上の高速道路とは異なり、いつ宇宙への扉が開くかは天文学的に長い期間となる。
国際宇宙ステーションから地球に向けて飛ばそうとしていた宇宙飛行機もデブリスになるとその計画が中止になったくらいであるから、今回のデブリスの威力は強力であると考えられる。
今後しばらくは関連する記事が紙面をにぎわせることになるだろう。
(参考)人工衛星は地球の自転(赤道で約460m/秒)を利用して打ち上げられるので、大部分の衛星は地球を東周りに周回することになる。
ニューヨーク(ウォール・ストリート・ジャーナル) 2月12日
[WSJ] 米露の衛星が衝突、宇宙ごみへの懸念高まる
引用開始
Iridiumの衛星が廃棄された衛星と衝突した事故で大量の宇宙ごみが発生、さらなる衝突の可能性も指摘されている。
米企業の商業衛星が、使われていないロシアの軍事衛星と衝突して破損し、宇宙ごみの危険性をめぐる新たな懸念を呼んでいる。米航空宇宙局(NASA)は「軌道上でこの種の事故は初めて」としている。
衝突は2月10日、低軌道上で起きた。米Iridium Satelliteの所有する衛星1基と、数年前に機能を停止したとみられるロシアの衛星がぶつかったと米政府と衛星業界関係者は語る。
事故により、シベリア上空約480マイル(772キロ)に宇宙ごみの大きな集合が2つでき、これを受けて宇宙科学者や技術者はさらなる衝突の可能性を検討している。
業界関係者は、Iridiumは衝突したロシアの衛星を、1993年に打ち上げられたCosmosシリーズの衛星と特定したと話している。この衛星は重さ1トン以上で、原子炉を搭載しているという。衝突で核の残留物が飛び出す恐れもあるが、専門家は何年も前から、放射能を帯びた宇宙ごみが大気圏を通り抜けて人が住む地域に落ちてくる可能性は非常に低いと主張している。
国防総省の関係者は、通常のサイズの衛星との衝突が差し迫っているのを見落とした経緯を問われることになるだろうと、Iridiumをよく知る衛星コンサルタントのティム・ファラー氏は言う。商業衛星は「小さな宇宙ごみとの衝突の可能性を避けるために定期的に位置を変える」という。
国防総省幹部、衛星業界幹部、NASA上層部は以前から、軌道上の宇宙ごみの危険性に対する懸念を公に示していた。だが、衛星と直接衝突する可能性は非常に低く、基本的に起こり得ないと考えられていた。比較的大きな物体を追跡するには、同省が利用している地上および宇宙の偵察システムで十分とされていた。
NASAは、軌道上での偶発的な衝突の事例はこれまでに4件あり、たいていはロケットの部品や宇宙ごみの衝突だとしている。通常サイズの衛星が関係した事故はなかった。
引用終了 |
さらに、
2009年2月13日掲載
衛星衝突により宇宙空間はゴミだらけ! このゴミはいつなくなるの?
昨日に続き本日もこの記事が紙面をにぎわせている。サブプライムの譬え(たとえ)ではないが、この衝突は最初は何気なく見えて、実はボディブローのようにじわじわとそのダメージが現われてくるような、重大な事柄かもしれない。
新聞記事によると、人工衛星の形にもよると思うが、高度1000kmの衛星が自然に地上に落下してくるのに2000年かかるとある。今回の衝突が、第一報は高度660kmで、そしてこの新聞によると高度800kmでの衝突となっている。800kmから破片が自然に地球に落ちてくる時間も、2000年とは言わないが気が遠くなるほど長い時間と推定される。
さて、私の概算によると、高度800kmを円軌道で回る衛星は、その速度は7447m/秒である。衝突によりこの速度が約100m/秒遅くなって7344m/秒となると、遠地点が800km、近地点が400kmの楕円軌道に移る。この400kmという高度は、国際宇宙ステーションが飛行している高度であるので、今回生じた宇宙ゴミは十分に宇宙ステーションに届く可能性がある。また、高度800kmでの速度が同じく7230m/秒と約200m/秒遅くなると破片は地上にまで到達することになる(地上に落ちてくることになる)。
一部の新聞で、生じた宇宙ゴミは国際宇宙ステーションに影響を与える心配はないとされている。宇宙ゴミの国際宇宙ステーション軌道への到達の可能性が、私の危惧で終わればよいと思っているのだが。まずは、今月22日以降となっている、若田光一さんが搭乗するスペースシャトル「ディスカバリー号」の打ち上げを見守りたい。
読売新聞 2月13日
宇宙空間はゴミだらけ、人工衛星の破片など1万個
http://www.yomiuri.co.jp/space/news/20090213-OYT1T00081.htm?from=navr
引用開始
NASAが監視している宇宙ごみのイメージ図。宇宙ごみを示す点は位置を示し、大きさは誇張してある(NASA提供) 米イリジウム社の通信衛星とロシアの使用済み衛星がシベリア上空800キロ・メートルで衝突した事故は、宇宙空間が不要なごみで満ちている現実を、改めて浮かび上がらせた。
米航空宇宙局(NASA)によると、人工衛星の破片など、大きさが10センチ・メートル以上の宇宙ごみは約1万個に及ぶ。現役の衛星は約800基なので、宇宙に漂う人工物の大半はごみということになる。
宇宙ごみは、人工衛星の打ち上げが本格化した1960年代から増え続けている。おもに、寿命が尽きた衛星がそのまま長く宇宙空間に漂うからだ。大気圏に落ちてくれば燃え尽きて消滅するが、高度1000キロ・メートルの衛星なら2000年もかかる。
国連は2007年2月、寿命を迎えた衛星は、燃料があるうちに大気圏に向けて軌道を変更し、ごみとして宇宙に残さないよう求めた。
引用終了 |
さらに、
2009年2月24日掲載
宇宙ごみ 対策へ国際規格 5月 ISOで合意へ
宇宙ごみ対策がISOで規格化される方向に向かうようである。この記事によると、大きさ10cmを超える宇宙ごみの数は15000個で、高度2000km以下の低軌道に多く存在する。最も多く存在するのは高度が890km付近で、一辺が数百kmの立方体に1個存在する程度と記している。
10cm以下の宇宙ごみの数については触れられていない。
約3000個ある人工衛星どおしの衝突の確率は小さいと考えられていたのだろう。しかし、宇宙ごみ問題は長年の懸案であったらしく、ISO化への合意が早い。地上のごみ問題解決へ向けての速度とは大違いである。
日本経済新聞 2月23日
宇宙ごみ 対策へ国際規格 5月 ISOで合意へ
日米欧ロなど提案
米ロの衛星衝突の影響は?
NASAなどが分析中
宇宙ごみの寿命(目安)
高度200km以下 〜2、3日
200〜600km 〜2、3年
600〜800km 〜数十年
800〜2000km 〜数百年以上
2000km以上 〜ほぼ永遠
さらに、
2009年1月31日掲載
宇宙ゴミ(Space Debris)がなかったころの宇宙空間
久しぶりに高校1年生の時に大きな影響を受けた書籍を引っ張り出してきた。
本書が出版されるとすぐに取り寄せ、むさぼるように読んだ。基礎知識のないままに年内には一応目を通したと記憶している。今となっては懐かしい思い出であるが、多くの数式、化学式が出てくるので、この本で数学、化学、物理の基礎および応用を学んだことになる。
ページ285からは、今はやりの燃料電池が宇宙用電源として解説されている。ジェミニ計画(1965年)からすでに使用が開始されていたと記憶している。
人工衛星の章を見ても、ロケットの打ち上げから衛星の軌道投入までが数式で示されている。まだコンピュータが十分には発達していない時代であるので、数学を用いる解法は物理の教科書と同じである。今のように基礎物理式(運動方程式)をコンピュータ・プログラム中に登録し、微小時間を積算していくことにより軌道を算出することが難しかった時代である。
考えてみるに、今はコンピュータで何でもできてしまうが、そのプログラムの中身は使用者からはブラックボックスとなってしまっていることが多く、どのパラメータが結果に大きな影響を与えるかのイメージができない時代となっている。科学やコンピュータの進歩は人類に利便性を提供したが、逆に発想の幅を狭くしたように感じられる。
さて、下に示した図はソビエトや米国の懐かしい衛星が登場している。日本は多くの失敗を重ねたのち、1970年(昭和45年)2月11日にラムダ4型固体ロケットを用いて、人工衛星「おおすみ」を軌道に乗せることに成功した。本書「宇宙工学概論」の発行から3年後である。
この「宇宙工学概論」が発行された時には、まだ人工衛星の数は少なく、宇宙ゴミ(SpaceDebris)を気にしないでもよい時代であった。なお、図中の高度はマイル(mi)で示してあるので、静止軌道の22000miは35900kmとなる。
宇宙公学概論 斎藤利生著 (昭和42年8月、地人書館)
1,500円 (いまはアマゾンで中古本が2,584円)
1.ロケット推進の基礎
2.液体ロケット
3.液体推進剤
4.固体ロケット
5.個体推進剤
6.混合型ロケット
7.ロケットの構造
8.熱防護の基礎
9.耐熱構造および耐熱材料
10.材料に及ぼす宇宙環境の影響
11.人工衛星
11.1 人工衛星の軌道
11.2 人工衛星の性能
11.3 人工衛星の制御
11.4 制御用機器
11.5 宇宙電源
12.再突入
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