107. 宇宙は膨張を続けている? 斥力が働き星々離れる

 2009年 1月26日掲載  2014年 1月20日再掲


本日のブログ表題は新聞記事の見出しそのものである。

宇宙は広大で一つの謎が解けると次の謎が生まれる。かつて宇宙は、膨張しているか?、静止状態にあるか?、収縮しているか?、の議論があり、この問題は遠くにある星ほどスペクトルに偏移(ドップラー効果)があることより、膨張しているとの結論となった。私の知っている古い宇宙像である。

本日紹介の新聞記事では、宇宙は膨張し、遠くの星ほどその膨張の速度を速めている、と述べられている。あたかも宇宙に斥力が働いているように、というのがこの新聞見出しである。

宇宙の誕生から137億年。気が遠くなるような時間である。はるか遠方の、私たちから見て宇宙の端にあると観測される星はほぼ光の速度で私たちより遠ざかっているから、乱暴な言い方を許していただくと、宇宙の半径は137億光年となる。もし、その縁よりも向こうに宇宙が連続して存在するとすると、それは光速よりも速い速度で私たちの銀河から遠ざかっていることになる。

記事には、2000万光年より近い範囲では引力が働いていると記されている。137億光年と比較すると、きわめて短い距離である。

この距離よりも近くでは万有引力が働く。遠くでは斥力が働く。では、2000万光年の位置では万有引力と斥力が釣り合っているのか。科学分野においては観測技術が日進月歩である。さらに精密な観測ができるようになるとこの答えが得られることであろう。

そのとき、斥力の原因が何なのか? 宇宙空間には1立方センチメートルあたりに水素原子が1個存在し、空間に新たに原子が生まれ続けているという話をかつて聞いたことがあるが、この物質の吹き出しは宇宙空間の膨張につながるのか? あるいは、引力の強化につながるのか? 興味深い。

最近では宇宙の3次元地図(宇宙の大規模構造)が作られ、星は宇宙空間に一様に存在するのではなく、星雲がひも状につながった形で存在していることが知られている。2000万光年を超えてつながるひもはやがてちぎれてはるか遠くに離れていってしまうのか。また、それより近くにある星雲は長い時間の後にはより近い存在となるのか。これがもう一つの興味である。

もちろん、人間の短い一生の中では観測することはできないが、ロマンがかき立てられるテーマである。


宇宙の大規模構造 Wikipedia


日本経済新聞 1月25日




さらに、
2011年10月5日掲載

ノーベル物理学賞が加速度的に膨張する宇宙の発見に与えられる 宇宙観も変えるほどの大発見!

ノーベル物理学賞が宇宙の加速膨張の発見に与えられた。ビッグバンから始まる宇宙は、その爆発の初速度で膨張を始めたが、いずれは宇宙自身のもつ重力によりその膨張速度が小さくなり収縮に向かうのではないかと考えられた。ちょうど投げ上げた石が地上に戻てくる状態を考えれば良い。このようなことが起こるといずれは宇宙は点となって消滅することになる。そこでアインシュタインは宇宙をこの消滅から守るべく宇宙定数なるものを考えだし、膨張も収縮もしない定常宇宙を作り上げた。

この宇宙定数の導入について、しかしエドウィン・ハッブルらの観測によって、宇宙が膨張していることが明らかになり、アインシュタインはこの宇宙定数の導入を生涯で「最大の過ち」(biggest blunder) として後悔したというエピソードは有名である。

しかし、同じく宇宙定数(Wikipedia)によると、

標準ビッグバン宇宙モデルの初期条件を説明する宇宙のインフレーションモデルは、宇宙の初期に時空が指数関数的な膨張を遂げた、とするモデルであるが、その原理は、宇宙項の存在に相当する真空のエネルギー(別名ダークエネルギー)の存在である。

近年、遠方の超新星の観測結果および宇宙マイクロ波背景放射(宇宙背景放射)の観測結果などから、我々の宇宙は現在、加速的に膨張していることが明らかになってきており、加速膨張を説明するメカニズムとして、宇宙項の存在が支持されている。 宇宙定数の源の有力な候補としては真空のエネルギーなどが挙げられ、これを仮定すると宇宙定数の大きさは、自然単位系で評価してナイーブには1の程度になる。しかし、観測的には10 − 120以下であることが分かっており、このギャップを埋めるメカニズムは現代宇宙論の未解決問題のひとつになっている。最近では、宇宙の加速膨張を担うものとして、宇宙項の可能性を含め、ダークエネルギーと総称することが普通になっている。


星が超新星爆発に至る過程においては、その星が周りの物質を取り込み、一定の質量を得たところで爆発に至る。したがって、爆発時に星が持つ質量はどの超新星爆発のおいても同じとなり、その結果、爆発時に発する光の強度も同じとなる。同じ明るさの超新星が近くにあると明るく見え、遠くにあると暗く見えることになる。

そこで、超新星爆発が起こったことを検知し、その明るさを測ると地球からその超新星までの距離が、ドップラー効果を利用するとその超新星が地球から遠ざかる速度が測定できる。測定で得られた明るさは星間物質により強度が弱められて観察されているので、その値を修正する。そして、超新星までの正確な距離と遠ざかる速度をグラフ化すると、遠くにある超新星ほど速い速度で地球から遠ざかっているとの結果となり、宇宙の傍聴が加速していることが分かった。

この結果はおそらくすべての宇宙科学者に大きな衝撃を与えたことだろう。アインシュタインは相対性理論でエネルギーと質量は等価であるといった。E=mc2である。私たちが見ている星々を私たちは宇宙の質量の全てであると昔は考えていた。そこに星間物質が加わり、それでもまだ宇宙の質量には足りない。もし宇宙が星々と星間物質だけで出来ていたならば宇宙はきっと収縮に向かうという答えがえられていたことだろう。

現在においては、宇宙のエネルギーは、星と銀河(0.5%)、ニュートリノ(0.1~1.5%)、普通の物質(原子)(4.4%)、暗黒物質(23%)、暗黒エネルギー(73%)、反物質(0%)、暗黒場(ヒグス)(10の62乗%??)などとなっている。私たちが目で確認することができるのは、星と銀河の僅かに0.5%のみである。さて、73%をも占める暗黒エネルギーとは何か。これが宇宙の加速膨張の原因で、どこからとも湧いて出、宇宙を加速度的に膨張させていると言われている。先に述べたアインシュタインが宇宙定数として記したそのものでもある。アインシュタインの一生の不覚どころか、まさに満塁ホームランであったわけだ。

宇宙は私たち人類にとってはまだまだ計り知れぬものである。その宇宙の一端を驚くべき結果と共に示した今回のノーベル物理学賞は、私たちに新しい宇宙観を提供したという意味において、科学史の大きな一頁をかざるにふさわしいものである。




産経ニュース 10月5日

宇宙の起源・未来探る最大の謎 ノーベル物理学賞米豪チーム

 ノーベル物理学賞の受賞が決まった米国のソール・パールマッターアダム・リース、オーストラリアのブライアン・シュミットの3氏による「宇宙の加速膨張」の発見は、科学史に残る大発見として近い将来の受賞が確実視されていた。宇宙の膨張速度は、過去よりも現在の方が加速しており、宇宙には空間を押し広げる謎のエネルギーが満ちていることを示した。

 宇宙は約137億年前、ビッグバンと呼ばれる大爆発で誕生した。その後も膨張は続いているが、物質や銀河同士を引きつける重力の影響で徐々に減速し、現在は一定速度で膨張していると考えられていた。

 研究チームはこの定説を覆した。超新星爆発の観測で宇宙の膨張速度を計測した結果、速度は一定ではなく、約70億年前に加速に転じたことを発見。その原因として、宇宙には互いに引きつけ合う重力とは逆に、退け合う「斥力」を持つ未知のエネルギーが存在すると結論付けた。

 研究チームはこれを「暗黒エネルギー」と命名。その正体はまったく不明で、宇宙の起源や未来を探る宇宙論での最大の謎になった。このエネルギーは、アインシュタインが自身の宇宙方程式に導入して後悔したとされる「宇宙項」との関連でも議論されている。

 横山順一東京大教授(宇宙論)は「時間の経過で暗黒エネルギーの大きさは変わるのかなど、その性質を明らかにする研究は現在も続いている。受賞に値する画期的な成果だ」と話す。






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