兵庫県加古川市の話である。加古川市は瀬戸内海に臨み、その南端に神戸製鋼所加古川工場がある。数年前までは、この敷地より多くの粉じんが飛散し、地域住民に影響を与えた。具体的には洗濯物のよごれや窓ガラスなどの汚れがすごく、いくら掃除してもきれいにならないというものである。
ここ数年、神戸製鋼所は敷地境界に網を張り巡らした結果、飛散する粉じん量は約半減し、6トン/km2/月から3トン/km2/月になったとのことである。後者の値は加古川市との間で取り決めた目標値である。
このたび、環境報告書(冊子版)を見る機会を得たので、その内容について吟味してみることにした。
防塵対策の骨子は環境対策の進捗状況報告(平成22年7月24日)に記されている。また、この報告書に至るまでのあゆみはこちらに記されている。
降下ばいじんの測定場所は次のとおりである。左下に500mを示す尺がついている。また、図の上部には、製鋼所から北北西に10km離れた、ばいじんの影響を受けにくいと考えられる山の上に観測点(観測点番号12)が設けられている。
降下ばいじんの定義は次のとおりである。
この定義に従って、神戸製鋼所が降下ばいじんとして環境報告書に示している値が次の表である。
神戸製鋼所のばいじんの影響を受けにくいと考えられる測定点12をブランク値として、上表の値を補正すると次表が得られる。
環境報告書には測定点1、2、3の数値処理後の値が図として示されているが、その処理過程は示されていない。私の処理結果とは異なり、全体的にならされた形となっている。
この表の数値を、その大小を円の大きさで示すと次図のようになる。赤三角が特にばいじん被害の大きなところである。青矢印は想定される風向きで、常に製鋼所の風下にあるところに、多くのばいじんが降るものと想定される。
報告書の記載は非常に簡単なものであり、最初に示した表(生データ)が示されているのみである。表を加工してそのばいじん量を地図上に載せてみると、ここで示したように、被害の状況が一目瞭然となってくる。
神戸製鋼所は、その測定値を数値では示したが、その値を地図上にプロットすることはしなかった。これは、そのようなプロットをすると住民へのインパクトが強すぎ、再度環境問題が再燃することを恐れているためかもしれない(恐れているとしか思えない)。今回目にした環境報告書(冊子版)では、ばいじんに関する部分は、大きな図表を当て込んだわずかに4ページのみの簡単なもので、説明文は4ページで14行しかない驚きの淡白さである。
その14行は次のとおりである。おおよそ雰囲気はつかめることと思う。
なお、家庭の計算であるが、粉じん3トン/km2/月は、たとえば粉じんの大きさが0.1mm直径で、その比重が1とすると、1m2の面積に、1か月で約6000個、1時間に8個の粉じんが着地するという計算となる。しかしたった8個と侮ってはならない。湿った洗濯物の表面は多量の空気(風)が通過していき、その空気中に含まれる粉じんが湿気を含んだ洗濯物に付着しやすいことを考えると、その被害は目に見える形で顕在化することになる。 |
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