2011年のノーベル化学賞が準結晶の発見に対してイスラエルの化学者ダニエル・シェヒトマン教授に贈られる。
この準結晶は結晶でもアモルファス(無定型、結晶構造がなくランダムに入り乱れた状態)でもない第3の固体状態である。1982年にこの準結晶を発見したときには、学会からは懐疑的にみられたようである。いわゆる、「そんなことがあるはずがない」という科学者がよく遭遇するヤツ(ケース、場合、場面)である。
しかし、科学とは、一般的には一見信じ難い発見によって進歩していくものである。
今回のノーベル化学賞は、準結晶という、耳慣れない言葉とその存在を世界に発信すると同時に、科学的な発見の重要性、そしてそれを信念をもって追求し極めて行くことの重要性を私たちに教えてくれた気がする。
今日は大学においても産業界においても、脚光を浴びている科学領域には多くの研究者が集まる。それはそれで理のあることではあるが、ひとつの領域を深く極めることが、研究のあるべき姿ではないか。
Wikipediaの中に東北大学の蔡安邦教授のお名前があったので今回は特にそのように感じた。東北大学は金属に関しては日本で一番の大学である。アモルファス金属と聞けば東北大学である。研究とはこのように深く掘り下げて行くものではないだろうか。誰でもが簡単に手がけることのできる研究はいままでの科学の連続線を伸ばしていくだけに過ぎない。深く探求することにより初めて不連続の発見、イノベーションが達成される。
今回はイスラエル工科大学のダニエル・シェヒトマン教授の1人受賞となったが、もし3人受賞であればきっと蔡安邦教授のお名前も入っていたのではないかと密かに思っている。同時に、イノベーションにつながる研究とは何かについて考えた。
日刊工業新聞 10月6日
ノーベル化学賞、「準結晶」を発見したシェヒトマン氏
スウェーデン王立科学アカデミーは5日、2011年のノーベル化学賞を、イスラエル工科大学のダニエル・シェヒトマン教授(70)に贈ると発表した。受賞理由は「準結晶の発見」。賞金は1000万スウェーデンクローナ(約1億1200万円)。授賞式は12月10日にストックホルムで行われる。
準結晶とは固体中の原子の並び方の分類の一つで、規則的ではあるが原子が周期を持たずに並んだ状態のこと。シェヒトマン教授は1982年、液体状態のアルミニウムとマンガンの合金を急冷すると、通常の構造とは異なる状態になることを発見した。固体ではあり得ないとされた正20面体の構造を持っていた。
それまで原子が規則正しく並んだ「結晶」と不規則に並んだ「アモルファス(非晶質)」の2分類しかなかったが、新たな結晶の状態として「準結晶」と名付けられた。
準結晶(Wikipedia)
準結晶(じゅんけっしょう、quasicrystal)とは結晶ともアモルファスとも異なる、第三の固体物質ともいうべき状態である。結晶を定義づける並進対称性は持たないが、原子配列に高い秩序性を有している。この研究に大きな貢献をしたダニエル・シェヒトマンに2011年のノーベル化学賞が授与された。
準結晶は1984年、ダニエル・シェヒトマンによって液体状態から急冷したAl-Mn合金から発見された。初期に発見された準結晶は熱力学的に不安定であり、熱を加えると、より安定な結晶相が析出してしまっていたが、東北大学金属材料研究所(当時)の蔡安邦らによって、Al-Cu-Fe(1987年)やAl-Ni-Co(1989年)といった安定な準結晶が次々と発見された。
準結晶に特有の物性として、金属としては異常に高い電気抵抗があげられる。例えば、アルミニウム、銅、鉄はいずれも良導体であるが、これらからなる準結晶Al-Cu-Feでは電気抵抗が10万倍にも達する。また、温度が低くなると抵抗が上昇する(通常の金属の示す性質と逆)、むしろ欠陥が存在する場合の方が抵抗が低い(これも通常の金属の性質と逆)などの特殊な性質を示す。
Quasicrystal(Wikipedia)
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