135. 私の知った荒木昭一氏の706ページの最長特許出願 世界一の長さ?

 2009年 1月 9日掲載  2014年 1月22日再掲 

 
特許の本文をご覧になったことがあるだろうか? 特許は通常は、短いもので3ページ位、長くなっても一般的には20ページを超えることは珍しい。たまに、海外から出願されたものに100ページを超えるものもあにはあるが、これは異例である。

さて、今回私が見つけた特許。そのページ数は実に706ページ。ポケットブックが200ページの時代に、その3冊分を超える特許である。

出願(特許として特許庁に提出された日付)は平成9年10月8日。多くの日本の特許が企業や官公庁より出願されるのに対して、この特許は個人の出願である。

また、特許の名前(発明の名称)も変わっている。科学的な普遍性を求められるべき特許の名称が、
「本人の考えている超伝導(超電導)体物質材料の成分系と合成製法とその製造方法」
である。

これだけ長くても、また数ページと短くても、特許庁に出願するときの費用は同じである。

出願された特許は1年6ヵ月は誰にも知られることなく、公表されずにいるが、1年6ヵ月を過ぎると特許公報で公開され、一般にその内容が知られることになる。この公開された状態では、残念ながらまだ特許ではない。

特許となるために必要な要件としては、
(1) 発明であること
発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されています。
(2) 新規性があること
特許出願前に、当該発明が発表されていたり、既に実施されたりしている場合には、例え自社が公表したものであっても、原則として特許の対象にはなりません。
(3) 進歩性があること
新規性のある発明であっても、普通の技術者が容易に思いつくような発明は、特許の対象になりません
(4) 他人より先に出願していること
同一の発明について二つの出願がある場合、先に発明した者ではなく、先に出願した者が、原則として権利を取得することができます。

特許にしたい場合には、出願から7年目までに審査請求をし、審査官がそれを特許と認め、さらに、これが特許として公告されて一般より特許性に対する意見がなければ晴れて特許となります。

さて、本特許も審査請求されましたが、残念ながら審査官により特許として認められることはありませんでした。

さらに、本発明者は、裁判にまで訴えて頑張りましたが、残念ながら特許になることはありませんでした。

普通ですと、特許性のない部分をどんどん捨てて行き、最後に残った部分が特許として認められることになります。706ページという非常に膨大な特許原文にも関わらず、特許性ありとして何も残らなかったというのが不思議でなりません。本特許は題名のとおり「本人の考えている」SF的な創作文学だったのでしょうか? あるいは、新規制に問題があったのでしょうか?

上記の裁判では、特許法第36条6号の2の規定を満たしていないとして裁判で敗訴しています。出願特許のページ数は多いが、結局何が発明であるかが裁判官には理解できなかったということです。


(特許出願)第36条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
6 第2項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
1.特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2.特許を受けようとする発明が明確であること。
3.請求項ごとの記載が簡潔であること。
4.その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。

判決の要旨は
【請求項1】の記載は、明細書第1頁乃至第219頁に亘っており、そこには、以上の記載の外に、成分系比率と称して多数の成分系の例が記載され、原査定で指摘するとおり、様々な事項が記載されているために特許を受けようとする本願の請求項1に係る発明がどのようなものか明確ではないし、また請求項1の記載が簡潔であるとも云えない。
また、特許請求の範囲の【請求項2】の記載も、明細書第219頁乃至第282頁に亘って、請求項1と同様、様々な事項が記載されているために特許を受けようとする本願の請求項2に係る発明がどのようなものか明確ではないし、また請求項2の記載が簡潔であるとも云えない。



ともかく、情報検索の途中でこのような公開特許公報と出会ったのにはビックリでした。

なお、最近出願の特許については、審査請求ができる期間は、出願の日から数えて3年目までと、従来の7年からは短縮されています。これは技術革新の速度が速くなった現代においては、世界的に特許性を早期に判断し、権利関係を明確にする必要が生じてきたためです。


特開平11−116241 荒木昭一氏(発明者一人)の出願

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