地球シミュレータの予測によると、極地(北極、南極)の気温が低緯度地方の気温と比較して、大きく上昇するとの結果となっている。北極はその予測の通りの動きを示しており、今後が憂慮されるところではあるが、一方、南極についてはその予測通りの動きとなっていない。その原因はどこにあるのか?
南極でのオゾン層の破壊がその原因ではないかとの記事が1月17日付の日本経済新聞に掲載された。
この記事によると、南極大陸上上の成層圏のオゾン層は、フロンやハロンから生じる塩素ラジカルにより壊される。成層圏は、本来ならばオゾンが太陽光を吸収して温められるところであるが、12km以上の成層圏においてはオゾンの濃度が希薄となっている。このために太陽光の吸収が起こらず、低温となる。その影響は極を東向きに循環している極風を強め、対流圏(高度10km以下)において、極外からの大気の流入を阻止する結果、南極の地表付近の気温は低いまま維持される。
以上のような理由であるそうだ。ただし、数十年後にオゾン層の破壊が少なくなってきたとき、いよいよ南極の温暖化が始まることになると記事は伝えている。原点は、一番下に記してあるScienceに記事による。
日本経済新聞 1月17日より
ヒマラヤ学誌 No.10, 212-220, 2009
南極・北極に見る地球温暖化の現状と将来 ― 南極・北極は本当に温暖化しているのか?
国立極地研究所 山内恭
南極温暖化?
なぜ南極の上空にオゾンホールができるかの説明としては、強い西風の輪、極渦の存在がある。極渦のために低緯度からの熱輸送がさえぎられ南極上空の大気が孤立し低温になる(そのため成層圏に雲ができ、フロンから塩素を取り出す反応を促進しオゾンホールをもたらす)と同時にオゾンの供給もなくなるとされてきた。ところが、実はこのオゾンホールが地上気温の動向にも関係しているという説が出てきた。オゾンホールが発達しているために極渦が強く、これは対流圏下層の大気循環をも支配し、極渦状態になって低緯度からの熱流入を妨げ南極の温暖化を抑えているというものである8)。南極沿岸基地である昭和基地でもこの50 年でみると風速が強まっていることと整合している5)。そうると、今後数十年のうちには期待されているオゾンホールの回復が起こると、極渦は弱まり、低緯度からの熱輸送が活発になり、南極の温暖化も促進されてしまうというものである9)。地球環境の大きな課題の2 つである温暖化とオゾンホールが実は関連しているという、驚くべき話である!
8) Thompson, W. J. and S. Solomon (2002):Interpretation of recent Southern Hemisphereclimate change. Science, 296, 895-899.
9) Son, S.-W., L. M. Polvani, D. W. Waugh, H.Akiyoshi, R. Garcia, D. Kinnison, S. Pawson, E.Rozanov, T. G. Shepherd and K. Shibata (2008):The impact of stratospheric ozone recovery on theSouthern Hemisphere westerly jet. Science, 320,1486-1489. |
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