獅子文六の 「父の乳」は、「主婦の友」という主婦の友社から出版されていた月刊誌に連載された小説である。連載期間は1965年1月〜1966年12月と2年の長きにわたる。その後1968年に新潮社より文庫本として出版された。いま、私の手元にはこの度入手したこの文庫本がある。
この本は獅子文六の自伝と考えてよいだろう。連載が始まった1965年1月に文六は71歳である。自身の子ども時代からの出来事を忠実に描いていると考えられる小説である。
本の見開きには「息子におくる」と記され、自身の生きざまと人生経験を子どもに伝えるための書でもある。
私がこの小説に出会ったのは感受性の強かったティーンエイジャーを迎える直前である。当時、マガジンと呼ばれるマンガ本はすでに月刊誌?週刊誌?として発行はされていたようであるが、田舎の子供である私には手に入れるすべはなかった。
その代わり、母親が愛読していた「主婦の友」を折に触れてみる機会があり、その中に本小説を見つけた。当時に興味があった部分の描写は、年を経てもありありと覚えていた。このたび、本書を再読すると、記憶にある部分はまさにその通りで、やはり興味を持って読んだ部分は長く深く心と記憶に残るものだと感心した。
読書以外にも、若い時に自ら調べ、自ら行動して得た知識や経験は長く生きた知恵として残るものである。どこでどのようなことで壁にぶつかり、そしてどのようにそれを克服したかは、自らの意思でそうしただけに一生の貴重な財産となっている。そのような財産を多く持っていることが人生を実り多きものにすると思うのである。人と人の関係は一朝一夕でなるものではないだけに、とくに貴重であろう。
獅子文六(Wikipediaより)
獅子 文六(しし ぶんろく、1893年7月1日 - 1969年12月13日)は、日本の小説家、劇作家、演出家。本名は、岩田 豊雄。演劇の分野では本名で活動した。日本芸術院会員、文化勲章受章。
横浜弁天通の岩田商会に生まれる。実父は元中津藩士で、福澤諭吉に学んだのち絹織物商を営んでいたが、文六9才のおりに死去する。横浜市立老松小学校から慶應義塾幼稚舎に編入学。普通部を経て、慶應義塾大学理財科予科に進学するも中退。
「父の乳」p146より
中略
p175
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