364. 鉄系化合物をワインに浸すと超電導が発現 これは研究者の一か八かの賭けか? 遊びか?

 2010年 9月 5日掲載  2014年 5月 5日再掲


超電導の研究者が、超電導の研究に行き詰まり?、パーティの席で出されたワインをヒントに、鉄化合物をワイン漬けにすることをひらめいた。そしてその通り実験すると、なんと驚くなかれ、超電導が実際に発現した。ワイン中のどの成分が超電導の発現に寄与しているかはまだ明らかになっていないようである。

このような話は、化学を業としない人からは博打か、それとも遊びかと受け止められるであろう。研究者は、理路整然と考え、そして良い結果が得られればその考えが正しかったし、違った結果が得られれば(うまくいかなかったら)その考えが間違っていたことになる。

しかし、そのように理路整然と考え、その通りに結果が出せる科学者がどれほどいるであろうか?そのような科学者はよほどの大天才である。

一般の科学者は、予測を立てて一生懸命に実験をするが、ほとんどの場合思ったような結果とはならない。失敗に失敗を重ねて、やっと目的としたところに到達する。そして場合によっては、自分自身でも思ってみなかった幸運に恵まれることもある。まさに神からの贈り物を受け取るに等しいようなことが現実に起こる。2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんも、調合を間違え捨てようとした実験液で実験したところ、偶然にも世紀の発見につながったわけである。

化学の発見にはセレンディピティが関与することが多い。偶然に発見が起こる場合が多いということであるが、目の前にその偶然が現れたときに、それが価値ある発見であると認識できなければ、その幸運の女神は目の前をただ通り過ぎて行くだけになる。今回の鉄系超電導の発現といい、田中耕一氏の事例といい、すこし意味合いは違うが、ともに偶然を大切にした結果の偉業である。

今回の鉄系超電導のように何が利いているか分からない場合は、これからワイン中に含まれる成分を絞り込んでいく必要がある。その成分に到達するのも時間の問題であろう。その成分がわかれば、それが鉄系超電導分野における次の進展への起爆役となるであろう。

なお、似たような方法として、医薬や農薬のリードジェネレーションに使用するコンビナトリアルケミストリーなる手法がある。これは、数多くの化合物を原料の組み合わせを利用して発生し、生じた化合物群の薬効を一挙にスクリーニングすることにより、薬効のある化合物の形を探そうというものである。従来の一つずつ化合物を合成していく方法と比較して格段に効率が高い方法である。




産経新聞 8月23日

鉄系超電導、お酒が誘発 1日浸し加熱で物材機構チーム発見

ワインや日本酒には不思議な力が… ある種の鉄の化合物をワインや日本酒などに1日浸し、70度に加熱すると、電気抵抗が完全になくなる超電導の性質が生まれることを、物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の研究チームが発見した。  つづく


コンビナトリアムケミストリー(Wikipedia)

コンビナトリアルケミストリー あるいはコンビナトリアル化学(-かがく、combinatorial chemistry) とは、化合物誘導体群(ケミカルライブラリー、化合物ライブラリー)の合成技術と方法論に関する有機化学の一分野である。すなわち組み合わせ論に基づいて列挙し設計された一連のケミカルライブラリーを系統的な合成経路で効率的に多品種合成する為の実験手法とそれに関する研究分野である。言い換えると、一般的な合成化学は特定の目標化合物を合成する為に最適な合成方法を探究することに主眼が置かれるが、コンビナトリアルケミストリーでは一連のケミカルライブラリー全てを合成する為に最適な方法を探究する。

今日においては、コンビナトリアルケミストリーは、おそらくは製薬産業に強い影響をもたらしたと考えられる。化合物が持つ生理活性に関する性質を最適化する製薬会社の研究者は、相い異なるが関連性のある化合物ライブラリーを構築することを実現しようとした。ロボット化技術の発展はコンビナトリアル合成を産業的な方法論へと導き、製薬企業に毎年数百万もの定常的な新規なサンプル合成を可能にした(記事医薬品化学を参照のこと)。




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