389. 超危険に挑戦 高機能活性炭製造方法の開発 一つ間違えば大爆発かも!

 2010年10月19日掲載  2014年 5月 5日再掲


論文のタイトルは「溶融KNO3により表面改質した活性炭の金属イオン吸着特性」である。この論文は、活性炭表面を賦活(ふかつ、活力を与えること)して、金属イオンの吸着特性に優れた活性炭を開発することを目的としている。

出所は、表面技術、61(10)、698-702(2010)


活性炭を賦活する方法には大きく分けて2つの方法がある。

薬品賦活では、塩化亜鉛(ZnCl2)が最も多く使用され、リン酸(H3PO4)、硫酸(H2SO4)、水酸化カリウム(KOH)あるいは水酸化ナトリウム(NaOH)なども使用される。

もう一つは水蒸気を用いる方法である。次の反応により活性炭(これはほとんど炭素Cからできているが)の一部を削り取り、表面に細孔を形成していく。活性炭上の炭素のかなりの部分が、表面から一酸化炭素(CO)と水素(H2)となって消失していき、細孔が形成される。

       C + H2O → CO + H2

本論文の方法は、活性炭に10倍量の硝酸カリウム(KNO3)を加えて250℃~300℃で5~10時間加熱する。その間に活性炭の表面が硝酸カリウムにより酸化を受けて、表面にカルボン酸(COOH)が生じてくる。このカルボン酸は金属イオンを捕まえる特性があるので、排水中の金属イオンを容易に捕える活性炭が出来上がることになる。


本日のポイントは、この活性炭の製造方法である。論文のタイトルは溶融硝酸カリウム(KNO3)で活性炭を処理するとなっているので、これを見て久しぶりにギョっとした。なぜならば、黒色火薬の組成が、硝酸カリウム:炭素:硫黄=75:15:10重量比の混合物であるのに対し、今回の組成が硝酸カリウム:炭素(活性炭)=91:9重量比となっているからである。硝酸カリウムは強い酸化剤、炭素は金属酸化物の還元にも利用される強い還元剤、この両者を混ぜて加熱すると強い酸化還元反応が起こる。事実、黒色火薬は花火用火薬や猟銃用の火薬として用いられている。

硝酸カリウムと活性炭を混ぜて、溶融温度にまで加熱すれば、大惨事となる可能性もある。硝酸カリウムと炭素の反応、すなわち炭素の酸化反応は一般的に発熱反応であるので、部分的にでも急激な反応が起こると温度が急激に上がり、その影響は隣接する部分の反応を加速度的に速くする。その結果、爆発につながることになる。

さて、反応の状態はどのようになっているのか? 論文中には温度と処理に要する時間は書いてあるが反応の状態の記載はない。キーポイントは論文のタイトルが言っているように、硝酸カリウム(KNO3)が溶融しているかどうかである。

・・・KNO3の融点は337℃であるので、250℃や300℃では溶融していないことになる。少し安心すると同時に看板(論文のタイトル)に偽りありと感じた次第である。


さて、論文の内容は、

まず、表題部分




そして、活性炭の処理に従いその表面が変化していく様子(上から下へと変化)




出来上がった活性炭の金属イオン吸着能力

グラフの高さは水溶液中に残った金属イオンの量(濃度)を表しているので、棒グラフが低いほど活性炭が多くの金属イオンを吸着したことを意味している。フェノール樹脂から作られた活性炭を処理した場合には、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe),クロム(Cr)などのイオンを、ヤシ殻活性炭を処理した場合には、さらに亜鉛(Zn)にも高い吸着活性を示す結果となっている。





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