令和4年度 技術士第一次試験 基礎科目
 そのポイント解説




拙著「技術士一次試験 基礎科目問題を極める(2022年版)
  2021年12月9日発行の増補版を

   この本文中では「基礎科目問題を極める」と記しています。

 書籍

 技術士一次試験 基礎科目を極める(2022年版)

 平成16年度~令和3年度 基礎科目の解答を収録






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令和4年度 基礎科目問題の概要

問題番号

問題の内容

「基礎科目問題を
極める」
関連ページ

キーワードなど

問題の難易

(目安)

第1群   設計・計画

1-1

金属材料の一般的性質

基本的事項を問う

1-2

事象と確率分布

5種類の分布

1-3

正規分布と確率変数z

37

正規分布の加法性

1-4

製品損傷と製造総コスト

48

問題文通りに数式化

1-5

片持ばりの受ける応力

1-6

施設建設と期待価値

47

問題文通りに計算

 第2群   情報・論理

2-1

情報セキュリティー

テレワーク環境と安全性

2-2

積集合の要素数

120

計算が合わない

2-3

仮想記憶アクセス回数

簡単なれど時間との勝負

2-4

ハミング距離

101

送信情報のエラー確認

2-5

2進数を10進数に

138-146

フローチャート

2-6

IPアドレスが表現可能数

87

単純に考えよう

 第3群   解析

3-1

導関数の差分表現

189

頻出問題

3-2

内積と外積の式

201

3-3

数値解析の精度

176

計算精度を問う

3-4

力ベクトルの分解

154

図を書けば即答

3-5

片持ばりにかかる応力

165

知っている人は知っている

3-6

弦上振子の固有振動数

 

積分に習熟の必要あり

 第4群   材料・化学・バイオ

4-1

水溶液の酸性度

250

頻出問題

4-2

原子の酸化数

245

基礎的問題

4-3

鋼板の構成

容易な計算

4-4

材料の力学的特性試験

264

引張試験

4-5

酵素の特徴

282

リパーゼ

難?

4-6

DNA鎖塩基の組成

277

A G C T

 第5群   環境・エネルギー・技術

5-1

IPCC第6次評価報告

469

今世紀末の気温上昇は?

5-2

一般と産業廃棄物

5-3

石油の輸入

312

どこから、どこを通って

5-4

水素エネルギー

注目を集める水素

5-5

リスクコミュニケーション

358

秘密会議は問題を招く

5-6

科学技術年代史

363-369

新たな4人の名前が

 
 


令和4年度 技術士一次試験 基礎科目
 ポイント解説




1群 設計・計画に関するもの

          R04年 基礎科目問題(日本技術士会)    



Ⅰ-1-1 金属材料の一般的性質 

解答:①

新傾向の問題であるが、基礎的事項を問うている。

von Mises相当応力:せん断ひずみエネルギーに比例する相当応力(機械設計エンジニアの基礎知識



Ⅰ-1-2 事象と確率分布

解答:④

新傾向の問題で、①と⑤は正解であるとすぐにわかるが、②③④に関しては、確立に関する十分な理解が求められる。

②不良品の発生:ポアソン分布
③次の災害が発生するまでの期間:指数分布
④交通事故発生回数:ポアソン分布



Ⅰ-1-3 正規分布と確率変数z

解答:③

μ=μ1+μ2=300-200=100
σ=√(σ12+σ22)=√(302+402)=50
z=(200-100)・50=2
表より確率は2.28%。従って答えは③。

類似問題は「基礎科目問題を極める」p37のH27-1-1-5です。正規分布の加法性がポイントです。



Ⅰ-1-4  製品損傷確率と製造総コスト

解答:①

問題文の記述通りに数式化する。

類似問題は「基礎科目問題を極める」p48のH19-1-1-2です



Ⅰ-1-5 片持ばりの受ける応力

解答:③

知っていなければ解けない問題です。
下図から、アの3乗、エの2乗は得られます。イは常識的に考えれば反比例です。これで答えは③となります。

材料力学 初心者向け-曲げ応力・応力度についてわかりやすく解説より


断面2次モーメントによる「はり」のたわみ量計算(機械設計エンジニアの基礎知識)より


「基礎科目問題を極める」p165のH27-1-3-6も参照ください。



Ⅰ-1-6 施設建設と期待価値

解答:②

「基礎科目問題を極める」p47のH19-1-1-5です。





2群 情報・論理に関するもの

          R04年 基礎科目問題(日本技術士会)    



Ⅰ-2-1 情報セキュリティー

解答:①

新傾向の問題ですが、常識的に判断できます。②~④が正しいことはすぐに理解できます。
①の「安全な通信経路」という表現は面白いです。本問は「通信の安全」が脅かされることを問題にしていますので、論理矛盾が生じます。

VPN:仮想プライベートネットワーク



Ⅰ-2-2 積集合の要素数

解答:③

単純な足し算の計算で答えが出せると思ったのですが、どうしても式の値が合いません。



条件1 s+3p+2d+f=11
条件2 s+2p+d=7
条件3 s+p=4
条件4 s+4p+4d+4f=16

集合A、B、C、D全ての積集合の要素数の値はsです。

上式より。s=2、p=2、d=1、f=1と算出すると条件式1~3の値は合うのですが、条件式4の値が18となってしまいます。

条件1~4の全てを満たす値は、s=0、p=4、d=-1、f=1です。(マイナス値はないですね)


「基礎科目問題を極める」p120のH22-1-2-3も参照のこと。



Ⅰ-2-3 仮想記憶へのアクセス回数

解答:③

考え方は簡単なのですが、短時間で下図の下図のシミュレーションができるかははなはだ疑問です。





Ⅰ-2-4 ハミング距離

解答:⑤

「基礎問題を極める」 pp138~146に
7津のフローチャートの解説をしている。p141のH28-1-2-3は、本問題とは逆に、10進数を2進数に変換するフローチャートである。



Ⅰ-2-5 2進数を10進数に 

解答:⑤

例題として示されている(1011)2について解説する。

(1011)2はa3=1、a2=0、a1=1、a0=1

開始からループに入る手前まで

まずはa3=1から
n=3
s←a3=1
i←2-1=1

ループ1巡目
s←2×1+a2=2+0=2
i←i-1=2-1=1

ループ2巡目
s←2×2+a1=4+1=5
i←i-1=1-1=0

ループ3巡目
s←2×5+a0=10+1=11
i←iー1=0-1=-1

ループ4巡目
iがゼロ未満であるので、計算終了

かくしてsは1→2→5→11と更新されていく。

(1011)2を10進数に変換すると、8+0+2+1=11である。

「基礎問題を極める」 pp138~146に
7津のフローチャートの解説をしている。p141のH28-1-2-3は、本問題とは逆に、10進数を2進数に変換するフローチャートである。



Ⅰ-2-6 IPアドレスが表現できる数

解答:③

問題文に惑わされることなく、素直に考えましょう。

「基礎科目問題を極める」p87のH28-1-2-6に同じ問題あり。







3群 解析に関するもの

          R04年 基礎科目問題(日本技術士会)    



Ⅰ-3-1 導関数の差分表現 

解答:④

「基礎科目問題を極める」 p189のH26-1-3-3に同じです。




Ⅰ-3-2 内積と外積 

解答:②

内積と外積の定義を知っていれば解ける問題です。

a=(a1,a2,a3)、b=(b1,b2,b3)で外積は
a×b=(a2b3-a3b2,a3b1-a1b3,a1b2-a2b1)

b×a=-a×bとなることを確認ください(下図からも推測できます)。

なお、①と④は(a×b)が、aおよびbと直行することから、内積の定義(cosθが掛かる、θは90°)により式の値はゼロとなります。



「基礎科目問題を極める」 p201のH26-1-3-4には内積の定義を問う問題あり。



Ⅰ-3-3 有数値解析の精度

解答:④

「基礎科目問題を極める」 p176のR01再-1-3-3に同じです。



Ⅰ-3-4 力ベクトルの分解
  

解答:②

「基礎科目問題を極める」 p154のH29-1-3-5の力ベクトル分解図を参照。



Ⅰ-3-5 モータの必要トルク  

解答:③

単純に考えて答えは③となる。
①と④にはTが入っていない。
②と⑤にはTが掛けてある。



Ⅰ-3-6 弦上振り子の固有振動数

解答:⑤

張力が物体に2Tsinθ加速度を与えますから


この式を整理し直すと


この式は定数係数の2階同時線型微分方程式であり、単振動の従う微分方程式の標準系と同じ形をしている。
従って、


本式において(a)はmとLであるが、(b)は2mと2Lである。答えとして⑤が導かれた。




4群 材料・化学・バイオに関するもの

          R04年 基礎科目問題(日本技術士会)     



Ⅰ-4-1 水溶液の酸性度

解答:②


「基礎科目問題を極める」 p250のH30-1-4-2に同じです。



Ⅰ-4-2 原子の酸化数

正解:④

「基礎科目問題を極める」 p245のH27-1-4-2を参照のこと。



Ⅰ-4-3 鋼板の構成

正解:①

計算ミスをしなければ正解に至る。

ベースメタル:埋蔵量・産出量が多く、精錬が簡単な金属。鉄・銅・亜鉛・錫すず・アルミニウムなど。



Ⅰ-4-4 鉄の精錬

解答:①

「基礎科目問題を極める」 p264のH28-1-4-4に同じです。



Ⅰ-4-5 酵素の特徴

解答:⑤

「基礎科目問題を極める」 p282のH30-1-4-6を参照のこと

①酵素の外表面は水と接触しているので、非極性アミノ酸側鎖はタンパク質(酵素)の内部に分布していることが多い。
③有機触媒である。
⑤リパーゼ:
参考までに、洗浄用酵素の種類と働き
洗剤によく配合される酵素はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)、リパーゼ(脂肪分解酵素)、アミラーゼ(デンプン分解酵素)、セルラーゼ(繊維分解酵素)です。いずれも加水分解反応を触媒する「加水分解酵素」の仲間です。




Ⅰ-4-6 二本鎖DNAを構成する塩基

解答:⑤

「基礎科目問題を極める」 p277のH27-1-4-6を参照のこと



5群 環境・エネルギー・技術に関するもの

          R04年 基礎科目問題(日本技術士会)     



Ⅰ-5-1 用語説明の正誤

解答:②

用語の内容を問うものです。基本的には常日頃から新聞等で情報にふれ、その内容を理解しておく必要があります。
最近は特に気候変動、その中でも地球温暖化、脱炭素は避けては通れないテーマとなっています。

「基礎科目問題を極める」 p469の気温上昇の変化図を参照のこと。
「今世紀末には産業革命前からの気温上昇が2.5度になる可能性」を知っていれば答えに至る。

「基礎科目問題を極める」にも、(補足資料)中に地球温暖化とカーボンニュートラルの項を設け、エネルギー白書と環境白書より必要と思える基礎データを抜粋しています。



Ⅰ-5-2 廃棄物

解答:①

環境省、令和元年度「産業廃棄物」排出・処理状況を公表 発表日:2022.02.15
  環境省は、令和元年度における産業廃棄物の排出及び処理状況等の実績を公表した。全国の産業廃棄物の総排出量は約38,596万トンで、前年度比で約700万トン(約1.9%)増加した。業種別排出量では、前年度と同様、上位5業種で総排出量の8割以上を占めた。その内訳は、「電気・ガス・熱供給・水道業」で約1101万トン(26.2%)、「農業・林業」で約8,126万トン(21.1%)、「建設業」で約7,971万トン(20.7%)、「パルプ・紙・紙加工品製造業」で約3,368万トン(8.7%)、「鉄鋼業」で約2,596万トン(6.7%)であった。種類別排出量では、上位3品目の、「汚泥」で約17,084万トン(44.3%)、「動物のふん尿」で約8,079万トン(20.9%)、「がれき類」で約5,893万トン(15.3%)、で総排出量の8割以上を占めた。さらに処理状況では、最終処分量が約916万トンとなり、前年度に比べ約0.3%増加したという。

20220329
一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について
 環境省は令和4年3月29日に、令和2年度における全国の一般廃棄物(ごみ及びし尿)の排出及び処理状況等の調査結果を取りまとめました。
(主な結果)
ごみ総排出量は4,167万トン(東京ドーム約112杯分)、1人1日当たりのごみ排出量は901グラム。
・ごみ総排出量、1人1日当たりのごみ排出量ともに減少。
・最終処分量は前年比4.2%減少。リサイクル率は増加。




Ⅰ-5-3 日本のエネルギー情勢 

解答:①

「基礎科目問題を極める」 p312のH30-1-5-3を参照のこと



Ⅰ-5-4 水素エネルギー 

解答:⑤

新聞紙上などでよく目にする話題ではありますが、意外に難しいかも。

 元素   記号  分子量   沸点(℃)   気体体積   液体体積 密度比 
 (L/mol)  (g/L)  (g/mL)  液体/気体
 ヘリウム  He  4  -269  22.4  0.18  0.125  694
 水素  H2  2  -253  22.4  0.09  0.071  788
 窒素  N2  28  -196  22.4  1.25  0.807  646
 酸素  O2  32  -183  22.4  1.43  1.141  798
 メタン  CH4  16  -161  22.4  0.71  0.424  597

  気体体積は標準状態(25℃、1気圧)
  メタンは天然ガスの主成分

燃料の発熱量(高位発熱量)   
 燃料  Mj/m3 Mj/kg 
 水素ガス  11.9  142
 天然ガス  39  54.5
 ガソリン  34600  49


水素と鉄鉱石の反応は吸熱反応(日本製鉄)より引用




確認のため、計算してみる。

生成熱(kJ/mol、H2、H2O、CO2はガス)

Fe2O3 H2O CO2 H2 C Fe
-822 -286 -394 0 0 0

Fe2O3+3H2→2Fe+3H2O+36kJ (計算上は発熱反応となりました)

一方、発熱反応であるといわれている鉄鉱石の炭素還元は

Fe2O3+1.5C→2Fe+1.5CO2-231kJ (計算上は吸熱反応となりました)


日本製鉄の記事とどこに違いがあるか、考えて行きます。



Ⅰ-5-5 リスクコミュニケーション

解答:⑤

常識的に判断
「リスク評価に至った道程の開示を避ける」はリスク情報の受信者に疑念を抱かせる。

「基礎科目問題を極める」 p358のR01再1-5-6参照



Ⅰ-5-6 科学技術年代史

解答:③

本問は難問です。

カロザース以外の4名の名前は始めて出てきました。

1828年  尿素の人工合成  ヴェーラー
1855年  転炉法の開発   ベッセマー
1898年  赤痢菌の発見   志賀潔
1917年  MS鋼の開発   本田光太郎
1935年  ナイロンの開発  カロザース

「基礎科目問題を極める」 pp363~369も参照ください。




以上、令和3年度の「基礎科目」について、超駆け足で要点のみを述べてきましたが、
詳しくは拙書「技術士一次試験 基礎科目を極める 2022年版を参照ください。