説明資料 33
  
 硝酸アンモニウムに関する大きな事故事例を集めた。硝酸アンモニウムは説明資料31でも示したように、それ単独でも爆発する。

 スライド1は固化した硫硝安混成肥料をダイナマイトで破砕する作業時に発生した大爆発である。過去に3万回以上も同じ作業をしており、なぜこんなものが爆発したのか、とは率直な感想である。爆発事故事例(日本カーリット)には次のように記されている。

その後の実験でも、この複塩を爆発させることは非常に困難なことが示された。この例は、普通の爆発の試験法では爆発しないと判断される物質が非常に大量の場合には大規模起爆によって爆発することもあることを示した例で、危険物の評価に関して考えさせられる例である。
出典:化学薬品の安全-反応性化学薬品の火災・爆発危険性の評価と対策- 前東京大学教授吉田著 大成出版社(1982)

 スライド2のベルギーの例は全くの人災である。テキサスシティの例は硝酸アンモニウムが単独で大爆発を起こした例であり、その原因はテキサスシティ大災害(Wikipedia)によると次のようになっている。

1947年4月16日の午前8時頃、フランス船籍の貨物船グランドキャンプ号の船内で火災が発生。当初はボヤ程度だったが、積荷の硝酸アンモニウムが放水によって傷むのを恐れた船の関係者が消火活動を拒否したため火勢が強まった。午前8時半から9時にかけて、硝酸アンモニウムの燃焼による黄金色(あるいは黄色かオレンジ色)の「美しい煙」が立ち上り、午前9時12分頃、大爆発。

また、書籍には次のように記述されている。

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか ジェームズ・R・チャイルズ 2006年 草思社 p.311

数百人もの死者を出した「肥料」の大爆発

米国は1945年後半、ヨーロッパの食糧生産を増進させるための硝安(硝酸アンモニウム、NH4NO3)の製造と輸出を開始した。硝安は以前の爆弾工場で作られた。そうした工場は、第二次大戦中、爆薬用に硝安を製造していた。硝酸と水酸化アンモニウム(アンモニア水)を混合すると水っぽい液体を生じる。これを加熱して蒸発させると、白い粒状の硝安が残る。その肥料の粒に撥水ワックスをコーティングし、45キログラムずつ袋に詰める。

硝安を受け取る港の一つが、テキサス州テキサスシティにあった。有蓋貨車が到着すると、荷役作業員が袋を下した。のちに作業員の数名が述べたように、貨車から出したときはまだあたたかい袋もあり、しかも黒く焦げていた。このことから、袋の中身が何かに反応して発熱したのではないかと疑ってみることができたのかもしれない。焦げたせいで袋が破れ、硝安が地面にこぼれやすくなった。まだ使用できる肥料を無駄にするよりはと、港湾労働者たちはこぼれた硝安をすくって、から袋に入れ、封をし、破れていない袋と一緒に船に積み込んだ。袋には、同じように地面に落ちていた穀類が混入した。こうした慣行は有益に思えたが、じつはそれは燃料-こぼれていた穀物-と硝安を混合することにほかならなかった。

硝安2100トンが船に積み込まれた。翌朝、船倉の底の袋が濡れないように設置されている木製の台から小さな火が出ているのを沖仲士が発見した。積み荷の自然発火かもしれない。だが、いちばんありそうなのは、沖仲士がタバコの吸い殻を船倉に落としたことだろう。

 船長は水をかけると積み荷が傷むからやめろ、代わりにパイプで蒸気を送れと命じた。「船倉を蒸す」のは、異常事態が発生した場合に火を消すための伝統的手法だった。これは最悪の選択をしたことになる。船倉の温度が170℃に達したとき、積み荷が融けはじめた(硝酸アンモニウムの融点は170℃)。



 スライド3の北朝鮮の例は記憶に新しい。それぞれ、燃えるもの(油)と燃やすもの(硝酸アンモニウムを積んだ貨車同士がぶつかって大爆発、は条件を謀ったような大爆発である。テキサス州肥料工場爆発事故は犯罪の可能性があるとの結論のようだ。本爆発事故はWikipediaには次のように記されている。

BATFEアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)は平成28年5月11日、この事故の原因が放火もしくは故意によるものと断定し、犯人逮捕に直結する情報を提供した者に最大で5万ドルの懸賞金を提供することを発表した。

 スライド4の天津での爆発事故は記憶に新しい。大爆発の原因は、結局は硝酸アンモニウムにあったようである。

 スライド5は、硝酸アンモニウムからは離れるが、過塩素酸アンモニウムの爆発が引き起こした事故である。過塩素酸アンモニウムは多くの固体ロケットで酸化剤として用いられている。このスライド中で(s)は固体を表し、(g)は気体を表す。

書籍には次のように記されている。

最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか ジェームズ・R・チャイルズ 2006年 草思社 p.198

 4000トンのロケット燃料が燃えた火事

  1988年5月4日 ネバダ州 PEPCON社工場で過塩素酸アンモニウム(NH4CLO4)が爆轟

(消防当局の見解)
 過塩素酸アンモニウムは固体ロケット燃料に用いる強力な酸化剤である。溶接工が使用していた切断用トーチが、工場に貯蔵されていた過塩素酸アンモニウムを発火させた。

(会社の見解)
 過塩素酸アンモニウムにしみ込んでいたメタンガスが原因。

発火から数分後には自衛消防隊は消火作業をあきらめた。出火から10分後には爆発が起こり、きのこ雲が工場の上空に立ち込めた。つづいてさらに3度、その度に激しさを増して爆発が起こった。


  
 
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